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【体験レポート】Akita de Workation College(羽後町ー後編)

 「起業人を呼び込むワーケーション」をテーマに2024年10月に羽後町(後半は横手市)で開催された「Akita de Workation College」(秋田県主催)のセミナー&ワークショップ。Wappa編集部も参加してきました。前半後半の2回に分けて参加レポートをご紹介します。(前半のレポートはコチラ)地域の魅力や課題と積極的に関わりたい、ワーケーションのコーディネーションやプロデュースに関わりたい方は必見のプログラムです。一行は同じ秋田県南地域の横手市に移動し、午後はランチを挟んでのスタート!ぜひ最後までご覧ください。

プログラムの開催案内

羽後町プログラム:「起業人を呼び込むワーケーション」(後半)

 フルーツがテーマのひとつとなっている今回のプログラム、秋田県の果樹栽培は、りんご王国の青森、さくらんぼの山形、福島の桃ほど知名度はないものの、実は横手地域は「肥沃な大地を存分に生かした農業は横手市の基幹産業であり、特に果樹生産についてはブランドである平鹿りんごをはじめ、西洋なし、ぶどう、もも、おうとうなど県内屈指の産地」(出典:秋田県・横手市果樹産地協議会)なんですよ。みなさんご存知でしたか?

街道も道沿いには果物の産直店があちこちに。りんごマークの温泉「ゆっぷる」(!)も

Wappa編集部も県南地域に伺う際は、ほぼ毎回フルーツをお土産に買っているので、つい寄り道したい誘惑にかられますが、今回は涙を呑んで会場に向かいます。と言いつつ、ウロウロして集合時間に遅刻するという・・・

 さて、到着したのは秋田自動車道横手インターチェンジ、横手駅からそれぞれ車で5分ほどの距離の市街地に2024年8月にオープンしたフルラボCafeさん。午前のプログラムでプレゼンターとして参加されたUGO HUBの村岡悠司さんが起業を支援された事業者です。

 カレッジプログラムの体験のひとつとして、今回は特別にフルラボCafeさんによるランチが提供されました。がっこ、新米、芋の子汁、そしてフルーツと全て地の食材を手作りした逸品ばかり。あぁ、なんて美味しいんでしょう。素朴かつ伝統的な家庭料理にこそ価値がつく現代、農業も料理も伝承いただいた方々への感謝とともに「秋田でえがった(良かった)なぁ」としみじみ思ったランチでした。

食材も料理も設えも素敵すぎたので、(絞りきれず)写真も多めにご紹介。

真ん中はミズのコブ(山菜のミズを実を漬けたもの)。秋田ではよく食されます。

芋のこ汁には、きりたんぽ同様にセリが入っているところに秋田が感じられます。そして糸こんにゃくも独特の存在感です

新米の季節!

あの高級な葡萄もたっぷりと

美味しいごはんと一緒だと自然に会話が弾みます。

さあ、心もお腹も、ほっこりしたところで午後のプログラムのスタートです!

午後のプレゼンターはフルラボ代表の加藤正哉さん

 地元・横手市出身の加藤さんは秋田県外の大学を卒業後、有名自然食材チェーンなどで働いていたが、売り場からは農家など生産者の顔が見えない販売方法に疑問を感じていたそうです。その後(果実とは無縁の)家業を継ぐため横手にUターンした加藤さんですが、農業への関心と情熱は一向に衰えず、野菜ソムリエの資格をとり、秋田県農林水産技術センター果樹試験場での勤務を経て、果樹農家になることを決意します。

 先ず始めたのが、奥さんのご実家所有の、当時は荒れていた田んぼを借りての果樹畑作り。重機が入らない立地で、全てを手作業で行わなくてはならない開墾は困難を極めたそうですが、初年度には人力でブルーベリーの苗を80本、翌年も70本植え、合計150本から果樹栽培をスタートします。

 しかし、大雨による浸水や、害虫のマイマイガ(害虫)の襲来などに直面し、身を持ってその難しさを経験します。それでも、3年目にはブルーベリーが収穫でき、果物の魅力をより一層強く感じた加藤さんは収穫体験にも乗り出します。

 加藤さんの果樹園は一度も除草剤や殺虫剤をしていないことから、様々な生き物がいるのだとか。ブルーベリーは薬剤を使用せず栽培できる稀有な果実ということが選択の理由ですが、その背景には多くの方に果樹に触れていただく体験の提供が念頭にありました。

 今回オープンしたフルラボCafeは、加藤さんが経営しているジャムブランド「フルラボ」のカフェ部&ショップ部門。自ら果樹栽培を行う加藤さん曰く「横手は県内でも唯一の大きな生産地。リンゴ、ぶどう、さくらんぼ、洋梨、和梨、プルーン、キウイ、桃、すいか、メロン、などさまざまな果樹が生産されているところは非常に珍しく、しかも高品質」と横手の果樹のポテンシャルについて熱く語ります。しかし、それにとどまらず「それぞれの果物の旬は短い中、どうやってその美味しさと魅力を伝えられるのか、より遠くの人にも横手のくだも届ける方法はなんだろう」と、自問の先に保存の効く加工品であるジャム作りを始めた背景を教えていただきました。

 そして、本来は果樹栽培には向かず他地域に比べてハンデがある豪雪地帯の横手(「かまくら」の本場!)で、なぜこれほど多くの品種が栽培されるのか、そこには地域の気象や地理的条件の中でも、長い期間に均等に出荷できるよう、血の滲むような努力をしてきた農家の物語があったこと、そして同時に、現代の横手の人々は、その歴史と価値としっかりと理解できているのだろうか?魅力を発信できているのだろうか?そんなわだかまりも感じていました。

 こんな「冒険する人」にUGO HUBの村岡さんがジョインします。村岡さんが繰り出す支援は、「改修前内覧会」や、ワークショップ参加型のセルフリノベーション、選挙運動のような出張型のクラウドファンディングプレゼンツアーなど、一見突拍子の無いそのアイデアに加藤さんは面食らったそうですが、他にも地元の画家をゲストに農家に絵手紙を出す企画など、果物を通じて人と人がつながる、従来の果実販売店の発想には無かったことも一緒に走りながら挑戦し、見事資金とファンを獲得。2024年8月29日のオープンを迎えます。

 フルーツへの尽きない情熱と人柄が伝わる加藤さんのプレゼンの終了後は、参加者からは「気候変動の影響について」「顧客の属性」「農地の取得について」「栽培や加工の現場以外での苦労と解決方法」など様々な質問があがり、制限時間いっぱいまで熱気あるディスカッションとなりました。

ロゴデザインは美大でグラフィックを学ぶ加藤さんのお嬢さんによるもの。「橋渡し」と「果物」の融合がモチーフです。

リノベーション前は加藤さんのご実家の燃料店。

 次に、プログラムは課題解決型ワークショップへと進みます。会場に用意されたのはいずれも横手産の「千秋」「秋映」「もりのかがやき」「ゆめあかり」「弥高」「サワールージュ」「トキ」「紅玉」りんご8種類が並んだテーブル。行われるのは「りんご大博覧会」と題された食べ比べです。

こんな楽しい博覧会なら毎日でも来場したいなぁ

 産地でもなかなか多種類のりんごを食べる機会は少ないそうで、食味、食感、香りなどの違いに新鮮な驚きと発見があり、感じたことや気づきをそれぞれ書き出していきます。最後は最も好きなりんごを選出する”総選挙”が実施されました。

  参加者のコメントを真剣に見入る加藤さん

 しかし、実はりんご大博覧会はワークショップの参加者にりんごへの興味を持ってもらい、知識をインプットするためのもので前段に過ぎません。ここからメインの課題解決のためのアイデア出し(提案)へと進みます。

 様々な課題やテーマがある中、今回スポットを当てたテーマは「子育てファミリー層にりんごを買ってもらう方法」

 このテーマを選んだ理由について、加藤さんは「りんごは重く輸送コストがかかることが難点。箱も丈夫でなければならない。同じ1000円を取るにしてもイチゴとは違う。買う人にとっても大変、さらに皮を剥かないとならない。子育てファミリーのライフスタイルに照らすと、買いにくい面があると感じている」と生産・販売現場で切実な課題のひとつであると、その意図を伝えました。

 短い時間の中でもここまで果物の可能性と課題について、ぎゅぎゅっと濃縮してインプットしたカレッジの参加者。りんご大博覧会のなごやかなムードからモードチェンジして真剣に課題テーマに向き合います。

そして提案タイムでは、一人ずつそれぞれのアイデアを発表しました。

 様々な分野年齢や経験、知識の異なる参加者から出たアイデアは生産、マーケティング、設備や備品、食育、税制など幅広い領域にわたりその数は数十にも上りました。この記事では全てを紹介することはできませんが、Wappa編集部としては「絶対安全なりんごカッターの開発」「皮を食べないと損するキャンペーン」「秋田のハロウィンはりんごで」などのアイデアが刺さりました。

 加藤さんからはそれぞれの案に対して講評をいただき、中にはぜひこれを進めたいと言うアイデアも。このような自分自身の気付きをダイレクトに伝えできること、また地域の方のレスポンスが得られるところは単なる観光とは異なる、課題解決型ワーケーションの魅力のひとつですね。

 お互いの顔が見える距離と規模で行われた、充実のワークショップ。最後はアドバイザー森重さんによる振り返りです。

 「雑誌やインスタを見て普通の観光客として来ると、村岡さん加藤さんのような魅力的な方と繋がることはなかなか難しいが、コーディネーターがいることで、今日のような面白い体験ができ、思いや人柄に触れることで応援しよう、手伝おうという気持ちを持つことができる。お金を払って対価を受けることも良いが、(体験する↔︎課題解決のアイデア提供する)価値交換によってギブアンドギブの関係で繋がることができた。地域に貢献したい起業や起業家はたくさんいる。お互い豊かになる仕組みとしてのワーケーションで地域の価値を高めることができる」と”起業人を呼び込む”ためのワーケーションプログラムをまとめていただきました。

 よく耳にするようになり、地域活性プロジェクトやワーケーションのシーンでも多様される「関係人口」というキーワード。実はどうなれば関係人口なの?、どうしたら関係が作れるの?など、よくわからないと感じている方もたくさんいる印象です。今回は1日だけの短いプログラムでしたが、(実はたくさんいる)魅力的な地域の方と繋げてくれる、ハブとなるコーディネーターがいることで、こんなに充実した体験ができることを実感できたAkita de Workation Collegeでした。

 余談ですが、フルラボCafeのキッチンの裏、普段はお客さんからは見えない場所に「関係性はつながりの土壌だ」と加藤さんが大切にしているモットーが記されてるそうです。こんな気持ちで私たちを待ってくれている人がいる。そう思うだけ、ますます横手のフルーツが好きになりました。(Wappa編集部)

集合写真はもちろん🍎と一緒に

【施設のご紹介】

 □フルラボCafe

 ・住所:秋田県横手市婦気大堤字下久保34-3

 ・TEL 090-2609-9012

 ・営業時間:10時~17時

 ・定休日:火・水

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